辻は倍々方式の掛け方で、この二日間の成績をプラス6000バーツ(2万円)としていた。
今晩も彼の運はよく、トータルプラス1万バーツ(3万3000円)まで稼いでいた頃、すでに七回連続でプレイヤーに来ているテーブルを見つける。
そこで、これから勝つまで連続して、逆張りのバンカーに掛けることに決めた。
いつものように四連続で負け、次の掛け金は、1600バーツ(5300円)。
内心余裕にもかかわらず、冷水グラスの周りに付いたような細かい水滴の張り付いた手中のチップをズボンで拭(ぬぐ)い、弁当を盛り付ける単純作業のバイトのように1600バーツをバンカーへ積み上げた。
裏向きにでバンカーとプレイヤーそれぞれに、カードが二枚ずつ配られる。
まだ、カードの合計は分からない。
プレイヤー側に一番多く掛けた人に、背筋をピンと伸ばし凛(りん)としたディーラーがその二枚のカードを裏向きのまま渡す。
渡された屈託(くったく)のシワをおでこに携(たずさ)えるタイ人のそのおじさんは、カードの角からゆっくりとめくる。
途中でカードの数が分かったのか二枚ともディーラーに放り投げ、宙を舞ったそれらは共に絵札。
プレイヤーは、0だった。
客の悪態で眉間にしわを寄せたディーラーは、上目遣いでチラチラその客を見ながらカードを元の位置に表向きにして戻す。
そして、同様にバンカー側の二枚のカードを上手く台の上を滑らせ、バンカー側に一番多い金額を掛けた人に裏向きのまま渡す。
その中年女性も慎重な手つきで、カードの角を少し折り曲げた。