南国の木々が辺りに生い茂り、芝刈り機で短く刈られた線が残る景観は、カンボジアにいてカンボジアではないようなとてもリッチな気分にさせた。


シャワーを浴び一段落(ひとだんらく)し申し合わせていた三人は、夕食に出かけた。


空港にあるようなセキュリティチックを通り過ぎると、カジノ場の中はさらに開放的で、ちょっとしたコンサートホールくらいの空間が広がっている。


そして、床一面に敷かれた厚手の絨毯とその模様が、一層の華さを演出していた。


「これがカジノかぁ・・・」


辻とセイジは、映画の中に迷い込んだように初めて足を踏み入れる紳士淑女(しゅくじょ)の世界に心の底からワクワクした。


辻が、黒い鉄格子のはめられたキャッシャー窓口で2万バーツ(6万6000円)チップに換えると、レストランの無料クーポン券が六枚もきた。


食券を1枚受け取っていたやすの説明によると、3000バーツに一枚食券を配っているという。


辻とセイジは、300万円相当の現金を交換するのかと期待していたが、意外な金額に逆に驚いた。


セイジは、内心おかしいと思っていたが、辻は、勝負する気分ではないのだろうと気にする様子もない。


淡い黄色を基調としたレストラン内は天井がとても高く、空間を贅沢(ぜいたく)に使用している。


過去のクメール文化繁栄というスポットライトに浮かび上がる踊るアプサラレリーフが壁の高い場所に飾られ、フロアー中央には、ステンレストレーに入れたれたタイ料理が一列にずらっと並んでいた。

熱々の湯気が立ち上っているトレイ下には温水が流れていて、それで常に料理を温めているようだ。


「全部食べ放題だから」とやすは、自宅のホームパーティーのようにちょっと冗談ぽく言った。