二人の声とグラス交わる透き通った響きが、お互いの五臓六腑(ごぞうろっぷ)に染み渡る。
セイジは、そんな風に他人思いでいつも人に気を使っていた。
それをよく理解して辻は、彼が好きだったし、またある意味尊敬もしていた。
辻は、そんなセイジといつまでも仲良くさせて貰(もら)いたいと心から願った。
「辻さん女の子チェックする時、上から下にパン! パン! パン!って視線が素早く移動するね」
「プッ!」セイジの不意打ち発言に酒を噴出しそうになる辻。と同時に顔から火が出るほど恥ずかしくなる。
「セイジさん、人のことよく見てるねえ。その洞察力が羨(うらや)ましいわ」
顔の皮が赤くなるのをごまかそうと無理やり作った笑顔で切り返すのが精一杯な辻に対し、セイジは正面を向いていたっていつもと変わらぬ表情をしていた。
二人は、同じでありながら決して重なることの無いプノンペンの夜を、誰かにプログラムされた機械仕掛けロボットのように毎晩繰り返した。
セイジが合流して一ヵ月があっという間に経ち、三人は、カジノのある町、ポイペットにきていた。
辻とセイジの二人は、やすの案内でカジノベガス併設のホテルにチェックインすることにした。
ホテルのエントランスは前面ガラス張りで、黒光りする床のタイルに魅惑的で妖艶なピンクやブルーのネオンが照り返り、歩いているだけで目がクラクラになってしまう。
豪奢(ごうしゃ)な受付前ロビーですれ違う宿泊客は、タイ人の上・中流層で、いわゆるお金持ち。
だが、すれ違う何人かは、自宅の庭から上がったようなつっかけに安モノのジャンパーを羽織っただけのとてもラフな格好をしていた。
宿泊カードに記入を済ませプラスチックの鍵を受け取ると、受付カウンターの脇を歩いて一度屋外に出る。
そこから、ゴルフ場ほどもある広大な敷地に建てられた離れの別館まで送迎用カートに乗り遊歩道を移動すると、巨大なひょうたん型したプールが目に飛び込み、それを囲むように別館が建てられていた。