辻は、彼がいつも好んでテキーラを飲むのを知っていた。
すぐに二人分のそれが席まで運ばれてくる。
長方形のステンレス製の薄いトレイの上には、テキーラの入ったグラスが二つ、半分にカットされた小ライムが二つとこんもりと小山になった塩。
それを目にしたセイジが、なんで、なんで?と不思議そうな顔をする。
「まぁ、いいから一杯いきましょう!」
辻は、透明で小さなテキーラグラスを勧めた。
二人して、左手甲の親指つけね辺りに塩を一つまみ置き、二人顔を見合わせると一瞬の沈黙が漂う。
「一斉のせっ!!」
二人速さを競うようほぼ同時にライムにかぶりつき、すぐさま犬のように左手甲の塩を舐め、そのまま一気にグラスの底を天にかざす。
「ガン!」
「ガン!!」
厚いグラス底を勢いよく叩(たた)きつける乾いた音が、木製テーブルの上で鳴り響く。
「ぷっはーっ!」
「うー!」
「くるねえ」
二人して公園で水遊びする少年のような、やんちゃな表情をお互いの顔に見る。
すると今度は、セイジが席を立ち、バーカウンターへ何かを頼みに行った。
戻ってきた彼の両手には、グラスに琥珀(こはく)の宝石を沈めていた。
「辻さんは、赤ラベルでしょ」
平らな氷の一辺が光るジョニーウォーカーだった。
「お疲れっす~!」