セイジは色々と経験しているようで、クラブでもよくつるんでいた辻とセイジを眺めるやすは、お互い歳も近い若者同士、馬が合うのだろうと片親になった心持で二人を見守っていた。
辻はある晩クラブで、若く長身の白人相手にビリヤードをするセイジを見かける。
腰を丸め背を台と平行にしてキューでボールを打つ時に見せる真剣な目つきは、普段の会話では見たことがなかった。
「ちっわすー!」
「ちっわす! セイジさん、玉撞(たまつ)きうまいね」
「そうでもないっすよ」
「いや、いや、打ち方カッコいいもん。相当遊んどるねえ」
そうからかうと、セイジはいつものように少しはにかんだ。
「僕、やすさんに教えてもらって始めたばかりなんだけど、コツ教えてよ」
セイジは、その若手映画俳優ばりの白人に、最後の黒球勝負で見事勝利。
セイジが、辻と試合をしながら打ち方などアドバイスすると、惜(お)しい所までいくものの、辻がセイジに勝つことは無かった。
「セイジさん、やっぱり上手いよ。やすさんより上手いんじゃない?」
「どうかなぁ、見てると変な小技使ったりするからねぇ、意外と侮(あなど)れないよ」
「じゃあ、二人ともレベル高いんだね。あー、早く上手くなりてえ!」
ビリヤードの台を縫(ぬ)って奥に進むと、防音壁で隔離された空間がディスコになっていた。
館内では、Sweetbox のDon't Push Me が大音量で流れ、そのアップテンポなリズムに男も女も皆、昨日も明日も無い本能の赴(おもむ)くままに体をくねらせている。
数人のアフリカ系黒人グループが開けにくそうなドアを肩で押し出て行くと、彼らと入れ替わるように二人の日本人が入り、踊り場を挟んで並行にある手前の長テーブル中央に壁を背に並んで座った。
すると、辻は「セイジさんは、いつも・・・」と彼の肩に軽く手を置き、席を立った左手にある”タイガー ビール”と描かれた青地に黄色い看板が光るバーカウンターまで向かう。