小説家志望の素人女性が、“TAKOYAKI”を題材に自身が小説家になるというサクセスストーリーを書いたのか?
そして、現実にその出版された小説がベストセラーとなり、映画化された作品を観ている自分・・・?
彼女は小説出版することで、晴れて現実の世界で小説家になるという自身の夢を実現させたのだろうか?・・・。
皮膚の外からゆっくりと忍ぶ赤い消毒液色に染まるように、女性主人公のサクセスストーリー映画であるという別の作品に取って代わるような感覚に陥る。
心地よく脳内の邪念を消し去り、次第に自分が近づきたかった思考が形を露(あらわ)にする。
辻は、自分が書いていた小説シナリオを、今ちょうど映画で観た気分になる。
それは、乾いた大地に降った雫(しずく)が、地下にゆっくりと吸収されるくらい自然なこと。同時に、渋滞を起こしていた思考の車線が何倍にも広がるのを感じる。
この時、辻の神経細胞が作り上げるイメージでは、映画『MY DATE WITH CAMERON』を観たときに感じた点、赤いクリップの話、上海作家の話、そして、映画『TAKOYAKI』を観たときに感じ取った四つの点がちょうど一直線に列を成しているのを見る。
次の瞬間、その延長線上に、これまで書いてきたこの小説『パーフェクト アメリカンドリーム ~未完の小説とバナナの実~』があるように思えたのだ。
今までバラバラに散らばっていた無数の点が、一つの図形を成した瞬(まばた)き。
地上からは分からなかったナスカの地上絵を、人工衛星の視点から捉えた六感を通じて全容を知った気分だった。
それは、かつて、満点の星空を眺め、その配置に様々な形を見出した羊飼いのようでもあった。
これだったんだ・・・。
ようやくこの時、ガンジャを吸い全裸事件を起こした晩に見た世界にたどり着けた気がしてならない辻が、恍惚(こうこつ)とベッドにあぐらをかいていた。