アキラは、池永の話しを聞いた後、思い出したようにある興味深いことを言い出す。
「そう言えば、上海の作家で、その人はすでに有名な作家だったらしいんですが、物書きを目指す若い主人公が、小説家になるという自伝的な小説を書いてそれが話題になり、いろんな言語に翻訳されていると聞いたことがあります」
「へぇー、僕の小説とどこか似ている気がするねぇ」
辻は、不思議と記憶の中にまた一つ、解読できない点が刻み込まれた気がした。
それから数日した暑い午後のドミトリー、ベッドの上で腹ばいの辻は、アキラから借りた液晶画面付き携帯MP4プレイヤーで音楽を聴いていた。
その中に『TAKOYAKI』という映画らしきファイルを見つける。
昼間の上昇気流が空に湖を溜め込む頃に帰宅したアキラに尋ねると、「大阪を舞台にしたタコ焼きの映画で、そんなに面白くなかった」と言う。
翌日、塵(ちり)のように時間だけはたくさんあった辻は、彼に断り小説を書く筆休めに独り、誰もいないドミでその映画を鑑賞することにした。
主人公であるヨースケ サンタマリアと大西真奈美を中心に巻き起こる、夢や人間愛をテーマにして描かれた映画のようだ。
女性主人公は、子供の頃から小説が大好きで、将来、作家になりたいと夢見る。
二人の主人公は、大阪でタコ焼きというソウルフードに出会い、紆余曲折をたどる。
その後、お互い別の道へ進むものの、最終的にそれぞれが夢に向かって歩む。そして、彼女は幼い頃より念願だった自身の小説『TAKOYAKI』を出版するというものであった。
しかし、映画のエンドロールで『本刷りできました!』と、出版社の事務机の上に映画と同名タイトルの小説が置かれるのを目にした時、辻は、未来と過去が、現実と空想が倒錯した異次元に飛ばされる。