「そうですね~」
池永は酒に弱いのか、頬を紅潮(こうちょう)させて相槌(あいづち)を打つ。
「でも、実際はその逆で、小説シナリオが映画化されることで現実世界にサクセスストーリーが生まれるー、みたいな小説なんだけど」
「あーあ、面白いかも!」
「夢がありますねー」
池永とアキラは、何度も大きく頷いていた。
「つまり、未来の事を予想して小説風に書くと、後から現実が追いつく内容なんですか?」とアキラが訊く。
「ん? ・・・うん。た、たぶん、そうだと思う」
辻の舌足らずな口ぶりに二人が笑うと、辻もそれを追うように笑い出し、テーブルが他のテーブルと繋がったように場が和む。
「でも、今まで小説なんてほとんど読んだこと無いし、物語の書き方も知らない。文才だって無いだろうし、そんなんで大丈夫なんかと不安になるよ」
すると、池永が口にした。
「小説で何とか大賞を受賞した人の話を聞くと、その人もあまり小説を読んだこと無いって言っていましたよ。
審査員いわく、『文才よりも、その裏に秘めた光る何かがあるから推薦した』っていうのを聞いた事があります」
辻は、思いがけない意外な事実に驚く。
受賞する人はきっとたくさん本を読む人で、その道の達人だろうと思っていたからだ。池永に背中を押してもらったように少し勇気付けられた気がした辻であった。