「帰り際に、キスされそうになったのに…押し返しちゃってさ…」
ちょっとだけ、泣きそうに声を掠らせている。
「嬉しいはずなのに…咄嗟に押し返してた……向こうも、びっくりした顔しててね、すごい申し訳ない気持ちになったの」
自分の想いと反して出た行動にどうやら戸惑いを隠せないらしい島崎。
でも俺は、勘違いだったということに気がついて安堵のため息をこぼした。
良かった、未遂だったってことか。
島崎には言えないけど、こちらとしてはありがたい気持ちでいっぱいだ。
そんな気持ちを隠しながら、俺は思いついた言葉をポン、と伝えていく。
「ゆっくり考えていけばいいと思うよ。今はまだ最近色々あって気持ちが整理しきれてないんだと思う」
「……そう、だよね…」
「別に付き合ってたって、絶対好きでいないといけないわけじゃないんだし…大事なのは島崎の本当の気持ちだよ」
そこまで言って島崎は小さく頷いた。
ありがとう、そう島崎がポツリと呟いた途端チャイムが鳴り、島崎は前を向いてしまった。
島崎は、あいつを好きな気持ちとキスを拒んだことが矛盾していることに困惑しているんだって、分かってる、けど。
……俺、最低じゃん。
島崎のこと素直に応援できないのに都合のいいようにアドバイスして、勝手にイライラして。
結局島崎を振り回して傷つけようとしてるのは、自分なんじゃないの?あいつより、タチが悪い。
まともな、アドバイスだってできない。
汚い感情が胸の中で渦巻いて、しばらく胸が痛くて仕方なかった。
なにより…好きだって、そう言えたら楽なのに。