「………て、」


『え?なんて?』


「チャイムも鳴るし、帰ってきて…」




ようやく絞り出した言葉は精一杯のごまかし。



でも、早く戻ってきて欲しい一心だった。




『そうだね、そろそろ戻るね。ありがとう亜紀』



電話が切れる音が耳に響いて、俺は視線を2人の方へまた向けた。


島崎は携帯を閉まって、あいつに帰るよう伝えてるように見えた。



良かった。島崎が戻ってくる。あいつとの時間も、もうおしまいだ。


ホッとしながら島崎とあいつが離れるのを待つことにしようとした瞬間、それは一瞬だった。




あいつが、島崎の腕を掴んで引き寄せる。


一瞬の出来事が、何秒にも何十秒にも…世界がゆっくり動いているような感覚だった。



そして、島崎を引き寄せた後あいつは顔を島崎のそれに近付けていって………そこから先は目の前が真っ暗になってしまった俺には分からなかった。



でもあれは、確実に───……








唇が重なっていたんだと思う。