自販機の前に着くと、ポケットに入れた財布から小銭を取り出して、いつも彼が飲んでいるコーヒーのボタンを押した。



甘党の私には到底飲めるものではないけど、これで少しでも彼が喜んでくれるなら…って思う。




これくらいでしか彼が喜ぶことが思いつかなくて。


でも、彼の笑顔を思い浮かべるだけで嬉しい気持ちになるな。




ガタン、と落ちたコーヒーを取り出すと中庭の方へ向かう。



すると、中庭の方角から走ってくる人影が。



だんだんと近付いていくうちにそれは彼だということが分かった。




「李緒…っ!」


息を切らしながらこっちまでやってきた彼。



汗だくで、滴が今にも顎先から落ちてしまいそうだ。



でもどうしてこんなに急いでやってきたんだろう。
これから中庭でお昼だというのに。



不思議に思いながらも、彼を見つめるとよほど急いで来たのかはぁっ…と肩で息をするように酸素を求めているようだった。



なんとなく、嫌な気配が私を襲う。