「あんたって人は!毎回こうじゃない!!」
母の怒鳴り声で起きたワタシは、障子の影からそっと母のいる向こうを見た。
「キーキーうるせェな。てめェみたいなババアと本気なハズねーだろ。」
父は母より十歳ほど若かったが、こんな事を言う人ではなかった。
優しくて、頭が良くて自慢の父。
「ババアって何よ!!」
しばらく父と母の言い争いが続いて、母は父の顔をビンタした。
頭に来た父はその場にあった灰皿で母の頭をぶった。
母が人形の様に真っ直ぐ倒れていったのは今もまだ目に焼き付いている。
それから血がこちら側まで伸びて来て、ぴちゃ、とワタシの脚を濡らした。
父はワタシに気づかずそのまま母を自分の畑に埋めに行った。
真っ赤な母の血は暖かくて、ワタシは大好きな母が目の前で死んだ事を五分くらいで理解した。
ワタシに取って母は優しくていい母親だった。
父を殺したいと言う殺意が芽生えた。
その日は計画を寝ずに畳に爪で書き、次の日の朝その畳をそっとカッターでグチャグチャにした。
ワタシが初めて立てた計画は簡単なものだった。
父に母がしている様に朝食を作り、そこに毒を盛る。
それだけ。
単調な作業だが、手が震えた。
人を殺める、
それもこれから。
全ては悪くないのに殺された母の為。
そして、父がもがいている時ワタシは即座に思ってしまった。
『父がこんなに簡単に死ぬんだ』と。
父が苦しみもがきながらワタシに「 てめェ、」と言ったとき、ワタシは優しい母の様に笑みを浮かべた。
そこでワタシも死ぬつもりだった。
でも、予想外のことが起きたのだ。
人を殺すのって一瞬で…でもとても気持ち良い。
それから証拠を隠滅し、ワタシも狙われた様に毒を自ら飲んだ。
ワタシは死ぬ量では無く、間一髪で助かったことになった。
ワタシは名前も変え、髪も姿全て変え、一年間山に籠り、元のワタシは行方不明となり、時期に自殺したものとされた。
DATA
死亡者
篠野 アキ (上記母)
篠野 フユキ(上記父)
行方不明者
篠野 カナ (上記ワタシ)
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速瀨 カエデ誕生。