彼女はスケッチブックを手に取り
何かを懸命に書いている。
「...素敵な声、ですね..歌手、です....か...
つっ....バンドのヴォーカルしてた...。
今はもうしてないけどな....。」
ひとつの思いが俺の頭をかすめる。
「...私のかわりに....歌って下さい?!
はぁ...それは無理だな。
俺は歌わないって決めたんだ。」
再び彼女が書いた文字は
俺の心を揺さぶるには十分すぎた。
「なんでって言われても....。
っ、もう俺は歌わねぇの!!」
彼女は少し眉をひそめ、
再びスケッチブックを俺に差し出す。
「さっき私のギターで歌ってたくせに...
って、あ゛~もぅ!
何を言ったって無理だ!俺は歌わねぇ!」
ウルウルと彼女は俺を見つめる。
「んな目で見たって無理なもんは無理だ!」
彼女は俺の言葉にしゅんとした。