肩まで伸びた茶色がかった髪の毛。
左耳側にはピンク色のリボン。
このリボンがないと倉橋澪って感じがしない。
昔、沙耶から貰ったお気に入りなんだ。
「2人とも、そろそろ行かないと遅刻するぞ?」
私と沙耶のやり取りに呆れた顔で大翔が見ていた。
朝っぱらから女の子が抱き合っている姿を見たら、そんな顔にもなるだろう。
でも、こんなのはいつものこと。
「行こう、澪。大翔くん怒っちゃう」
「大翔が怒っても全然怖くないけどね〜」
「全く、調子に乗るな」
大翔と沙耶。
この2人が私の大切な幼なじみ。
幼なじみといっても、元々は私と大翔の2人だった。
親同士が若い頃からの友達らしく、家は隣で小さい頃からいつも一緒。
何かあったら大翔の家に行き、大翔も私の家に数えきれないほど来たことがある。
もはや、家族同然の存在。
一方、沙耶との出会いは小学校の入学式。
私の家の近所に引っ越して来たのが、仲良くなったきっかけ。
大翔も交えて一緒に遊ぶことが多くなり、今に至る。
大翔の方が一緒にいる時間は長いが、沙耶も私の大切な幼なじみ。
そして、唯一の親友。
朝はこうして、毎日3人で学校まで登校するのが当たり前になっている。
「ん〜、今日のお弁当の中身は何かなぁ」
「早っ!もう昼のこと考えてるのか!?」
「ふふっ、澪らしい」
こんなたわいない話をするのもいつもの日常。
家族同然の大翔と、親友の沙耶。
2人と居る時間は落ち着くし、何より楽しい。
ずっと、ずっと、この関係は変わらないんだって思ってた。
当たり前のように2人が私の隣で笑っていてくれる。
私たちはずっと一緒だって。
信じて疑わなかったのに…………。
そんな当たり前の日常が当たり前じゃなくなるのは、本当に突然だった。
気づかないうちに少しずつズレる歯車にどうして気付かなかったんだろう。
「わっ、風強い…………」
運命が変わる風が吹く。
「………………うわぁああああ!寝過ごしたぁあああああ!!!!!」
時計を見てから慌てて飛び起きた。
昨日はせっかく早起きできたのに、すぐにこれだ。
目覚ましをセットしても聞こえてなければ意味がない。
バタバタと家の中を駆け回り、お母さんから「静かにしなさい」と一喝をくらった。
「どうして起こしてくれなかったのー!?」
目覚まし時計の音が聞こえなかった自分が悪いのに、とりあえず誰かのせいにしたかっただけ。
朝は少しイライラしてしまう。
それに、なんだか頰が痛い気がする。
「何度も起こしたわよ?大翔くんなんて顔叩いてたもの」
「えっ!?だから顔が痛いんだ!大翔のバカ!!!」
頰にバッと手を当てると、やっぱり少し熱い。
朝から女の顔を叩くなんて………。
ここまでされると女ではなく、男だと思われてそう。
「ていうか、顔を叩かれても起きなかったなんて……どんだけ爆睡してたの………」
私がなかなか家から出て来ない日は、大翔が起こしに部屋に入ってくる。
いつもならその時起きるけど、今日はダメだったみたい。
「…………ーーーよしっ、いってきます!」
ほんの数分で準備が完了し、走れば間に合いそうだ。
何度も寝坊を繰り返していると、朝の準備が日に日に早くできるようになってくる。
嬉しいようで嬉しくないスキルが上がってしまった…………。
「あぁっ!」
玄関を開けた瞬間に、大翔の家に自転車が無いことに気がついた。
私が居ないのをいいことに、自転車で学校に行くなんて………。
沙耶が休んで2人で行く時は歩きだったくせに。
この裏切り者!!!
私と沙耶扱いの差をそろそろ見直すべきだ。
学校に着いたら抗議してやる。
「って、時間ないんだった!」
大翔のせいで無駄な時間を過ごしてしまった。
いつもの道を走っても、たぶん間に合わない。
昔、買ってもらったばかりの自転車を、一週間で壊してから私の家には自転車がない。
実は3回も壊した。
「澪は絶対壊すから乗るの禁止」と大翔にも言われている。
そのため、自転車に乗る時は常に2人乗り。
もう、高校生だしそろそろ買ってほしいところ。
「…………はぁ…….はぁ…….やっぱ間に合わない………?」
とりあえず走り出し、スマホで時間を確認するとやっぱりこのままじゃ遅刻決定。
朝のホームルームまであと5分。
大翔に「また遅刻かよ〜」と笑われる。
「しかたない、あの道から行こう!」
今まで走っていた歩道から外れ、茂みの中へと足を踏み入れた。
「うぉっと……とっ、と……」
この道はかなり急な坂になっているし、そのうえデコボコでかなり走りにくい。
草や木も無造作に生えているため、視界も悪い。
でも、ここの道なら普通の歩道を走るより断然早く学校に着く。
小さい頃この茂みに入ってすっ転んで怪我をし、大翔にこっぴどく怒られた。
「もう入るなよ」ときつく言われていたけど、そんな約束を守ってなんかいられない。
トンッ、トンッ、っとリズムを刻むように、坂を駆け下りて行く。
意外と順調に進んでいるし、このまま行けば無傷。
高校生にもなってこんな所で怪我をするとかはさすがになかったかな?
「っと……お!もうすぐ歩道だ」
ようやく茂みから出られる。
ここの茂みを抜ければすぐ目の前が学校だ。
出口が近いと思うと、私の走るスピードも少しずつ上がってくる。
「…………ーーーうわぁっ!?」
調子乗ってスピードを上げていたら、近くにあった石を避けきれず、ガツンと足にぶつかった。
「わっ、ちょっ………わっ!」
加速するスピードは急には止まらず、体制を崩しながらも走り続けている。