今日も結局、彼女には会われへんかった…

そう思っていた帰り道、


「うしろ」


望に小声で囁かれた。

電車に揺られながらバレないように後ろを見ると、そこには席でこくこくと眠る彼女がいた。


「隣座ってきたら?」


望…お前はほんまええ友達や。

運良く空いていた彼女の隣に座ると、


「じゃあな、頑張れよ!」


望は、ほんまはもっと先やのに気を使って次の駅で降りた。

先輩の最寄りとか知らんな…

どこまで乗ってくんやろ…?

なかなか起きひん先輩。

降りる駅も知らんから、起こすこともできひんし。

気付けば俺は、先輩につられ寝てしまっていた。


「━━の、あのっ」


肩をとんとん叩く振動と、呼びかける声で目を覚ました。


「あ、すいません…」


先輩の肩にもたれてしまっていたらしい。

体を起こし目をこする。


「ふ、藤崎くんっ!?」


「すいません、重かった…すよね?」


ちらりと覗きこむと、


「大丈夫、やけど…」


ふふ、大丈夫なんや。

なんかちょっと、嬉しい。


「ここ、どこですか?」


「もう終点やで?」


まじか…


「先輩、最寄りは?」


「ここやで?」


これは、絶好のチャンスや!


「家まで送ります!」


「っな!いらん!」


「……いります!」


「…か、勝手にしたら…?」


少し赤くなった頬を見逃さなかった。

もしかしたら、脈がないこともないかも…。

上機嫌で先輩を家まで送ることに。

スタスタと歩みを進める先輩の隣を並んで歩く。


「森さん?」


「何?」


「…俺のこと、嫌いやないんですよね?」


「…だったら?」


「ふふ、嬉しいなって」


こんなことでも心から喜べる俺は、忠犬みたいな顔してんのかな?


「…単純」


呆れた顔をする彼女。

でも、出会った頃みたいな冷たさは感じなかった。


「あのー…」


「好きではないから」


「そうやなくて!連絡先、教えてくれませんか?」


ピタッと足を止めた彼女。

…お?お!?


「ここ、私の家」


いやそっちかい!

教えてくれるんかと思った…

うーん…

ここで帰るんは嫌やなー…

俯き考えていたら、目の前に差し出された。

彼女のものと思われるLINEのQRコード。


「えっ…いいんですか?」


「早くして」


「めっちゃ嬉しいです!」


自分でも単純やなって思うわ。

でも、嬉しいんやもん。


「別にまだ好きちゃうから」


「…ふふっ」


「…何笑ってんの?」


「まだ、ね?」


あかん。

話せば話すほど可愛い。


「そのうち好きにさせますよ!」


「なっ、ならんしっ…」


頬を赤くした。

意地っ張りな表情も好きやな…

なんて、笑

ベタ惚れやなほんまに…


「ちなみに、今度の日曜日、なんか予定ありますか?」


「ないけど…」


「空けといて?LINEしますから。じゃあまた」


1歩どころか、2歩も3歩も近付けた気がした。