王子に強引に連れてこられたのは、観覧車の下だった。
昼過ぎから観覧車に乗る人は少なく、最後尾に並んでもあまり待たずに乗れそうだ。

「コレ…乗る…の?」

「うん。頂上から全部よく見えるよ。」

観覧車を見上げていた王子は、涼しい顔して腰に回していた手をほどく。
ホッとした瞬間、今度はあたしの手をとって恋人つなぎにした。
そのまま、あたしの手の甲に唇を押しあてる。

「彼氏といるのに他の男のこと考えないで…。」

唇をあてたまま、王子がしゃべるので、手の甲にあたる声が皮膚をくすぐる。
ゾワゾワと首の後ろから、指先になにかがぬけていった。

「くっ、んっ。」

思わず手を引っ込めようとしたのに、それより早く握られてしまった。

「ダメだよ。もう、離さない。」

王子が、あたしを真っ直ぐに見つめてくる。
こんな状況になって、自分のうかつさを後悔してうつむいた。

このまま進むことも、司に戻ることもできない。
怖い。
急に足元に真っ暗な闇が広がって、あたしは目を閉じた。