(司!)腕のなかで更にぎゅっと閉じ込められて、司の顔が浮かぶ。
やっとわかったのに。

「やっと、つかまえた。」

耳元で囁かれて、あたしはどんな顔をしたらいいか困った。
もう、遅い?
ゆるゆると、視界が滲む。

すると、王子は腕をほどいて、あたしの腰に手をまわして引き寄せると、そのまま顔を近づけて、頬と頬をくっつける。

「羽柴の届かないところに行こうか?」

切羽詰まったような、掠れた声に胸が締め付けられる。

王子は、あたしの返事も待たずに、腰に回した手に力を込めると強引に歩きだした。

「ま、待って、なんか、いつもの砂原君じゃないみたい。」

「もう、待たないよ。」

そう言うと、王子は足を早める。
声もいつもと違うみたい。
そっと、顔を見上げる。
斜め下から見上げる王子の顔は、少しこわばっているみたいで、知らない人のようで…。

(なんか、怖い…司…どこ?)

知らず知らず、司をさがしていた。