「だから、ヤダって言ったのに。」

「ごめん、ごめん。ほら、写真よく撮れてるよ。」

ぶーたれているあたしに、記念写真を見せながら、王子がキラキラスマイルを炸裂させる。

(イヤ、無理だから、騙されないから。)
あたしは心の中で毒づきながら、差し出された写真を苦々しくながめた。
なぜ、人が最高調に絶叫しているところを、許可なく写すのか?しかも、みんな笑顔なのにあたしだけ必死の形相を写真を記念だからってなぜ買い取るのか?

何気に、王子に尋ねたところ、思わぬ返事が帰ってきて、たじろぐ。

「だって、彼女との写真ほしいの普通でしょ。」

「か、彼女?」
だれが?思わず聞き返そとして、慌てて口をつぐんだ。

王子がこの世のすべてをとろけさせる、とびっきりの笑顔を見せた。

美しいと思うのに、あたしは心のどこかが冷えて、上手く笑えなかった。

「や、やっぱり、あの時点で彼女に格上げされたんでしょうか?」

おそるおそる尋ねる。
あの時、ペアチケットを渡したときに、確認されたことを思い出していた。

「あれ、格上げされたのは、僕の方だと思ってたんだけど?勘違いだったのかなぁ。」

目を伏せ気味に、唇をとがらせる王子を、どこか別ビジョンから眺めてカワイイと思うのに、ちっとも気持ちがついていかない。
ザワザワする。
いたたまれない。
はやく、はやく何か言わないとって、警鐘がひびいてるのに、喉がカラカラで言葉が出て来ない。

「おいでよ。」
王子が真っ直ぐに見つめられる。
逃げだしたい、そう思うのに足が勝手に、王子との距離をつめる。
一歩、もう一歩。
『あっ!』
そう思った時には、王子の腕のなかにつつみこまれていた。