碧依さんも行き先くらい教えてくれたっていいのに…!


こんな高いホテル入ったことないよ…。


車を預けて、前を歩く碧依さんの右手をがっちりと掴んで歩く。


隣からクスクスと笑い声が聞こえた。


顔を上げて、碧依さんの顔を覗く。


口元を押さえて笑ってた。


ホテルのロビーには花がたくさん飾られていて、入った瞬間にフワッと香ってくる。


「藤堂(トウドウ)!こっちこっち」


碧依さんを呼ぶ声がする方を見ると、黒髪の男の人が手を挙げていた。


その人のところまでゆっくりと歩く。


「蜜弥(ミツヤ)。久しぶり。悪いな、呼び出したりして」


「気にすんな。たまには息抜きも必要だしな」


楽しそうに話す2人をただ黙ってみてた。


“蜜弥”と呼ばれた男の人は碧依さんよりも少しだけ背が低い。


「この子が彼女?」


いきなり顔を覗かれて驚きのあまり、碧依さんの後ろに隠れた。


これじゃ本当に子供だよ…。


「はは。子犬みてぇ。怖がんなくていいよ。驚かせてごめんね。俺、コイツの高校ん時からのダチで神林蜜弥(カンバヤシミツヤ)って言うんだ。よろしくね」