…その視線に、仁さんは短い溜息をついた。
テーブルの上に肘をつき、両手の指を組むようにして掌を合わせる。

さっきの様な鋭い視線はしてなかった。
困ったような顔をして、あたしの方へと目線を向けた。


「両親が亡くなったのは、今から28年前です。当時の剛はまだ5歳だった。我が儘盛りで利かん坊で、自分の言うことが通らないと、いつもひっくり返って泣くような子供だった…」


皆の表情の中に、懐かしそうな微笑みが浮かんだ。
昔を思い出してるんだな…と、すぐに分かった。


「両親が海外出張へ出かける前日の夕食はカレーでした。剛はグラタンが食べたいと我が儘を言って、聞いてもらえずに泣き叫んでた。
見るに見かねた母は、仕事から帰ったら作る…と約束した。でも、そのまま二度と帰ってくることはなかった。
約束は永遠に守られなくなって、剛は今でもそれをずっと後悔し続けてる。
我が儘を抑えきれなかった自分を恨んで、だからこそ二度とグラタンは食べない。
…あの日以降、あいつがそれを食べるのを見た者は家族内にはおりません。…けれど、もう克服してるもんだと思っていました……」


「ところが、まだ克服してねぇ」

「してないどころか、返って意固地になってねーか?」

「繊細なのよ、剛は。…聖と違って」


口が悪いな…と聖さんが言った。
四人の言葉を聞いて、咲子さんが付け加えた。