「…とにかく食べよう。冷えてしまったら折角の料理がもったいない。ばあさんが作ってくれた物だ。あったかいうちが一番美味しいに決まってる」


カチャ…という食器音と共に、食事の時間が始まった。


どの人も真剣にお料理に向かい合ってる。


何かを思い出すように、類さんがホワイトシチューの人参を見てる。
手まり寿司を頬張りながら、聖さんは鼻歌が出てきそうなくらいにご機嫌。
眉間にシワを寄せてた結華さんは、一口食べただけで「んーっ!」と満足そうな声を発した。



剛さんは…?と目線を向けた。

彼はスプーンを持たず、皿の中をじぃーと覗き込んだままだった。



「剛さん?…食べないんですか?」


温かいうちに…と思って声をかけた。

「食べるよ」と彼は言うものの、一向にスプーンを持とうとしない。


この間の夜と同じく、何かを考え込んでる様な顔つきをしてる。おかしく思い、側へと寄って行った。



「どうしたの?」と膝を折った。

「どうもしない。食べるよ」…と、彼は言うのだけど。


スプーンを持とうとした手が震えてる。
迷うように中身を掬い上げたままで止まる。

白くてふわふわな具材からは湯気が立ち上がり、中にはクリーム色したマッシュポテトが入ってる。
ホワイトソースと二段になった層はきれいに分かれ、チーズが美味しそうに蕩けていた。


…そのまま口をつけて欲しいのに、彼はどうしても食べない。