「いえ…大丈夫です」

ユアンは表情を悟られるのを隠すように、クリフォードに背を向けるように座り直しながら答えた。

これでもかなり改善されてきてはいるけれど、やはり人が大勢集まる場所は苦手だった。

頭痛がしてきたり、吐き気を覚えたりする。

そんな弱い部分を見せてしまっているような気がして、硬い表情のユアンは気丈に振るまう。

何もかもが完璧なように見えるクリフォードにだけは、絶対に知られたくないことだった。





それからクリフォードも話を続けることはなく、ニ人を乗せたオープンカーもゆっくりと走り続けていた。

パレードもまだまだ中盤に差し掛かるところだ。

クリフォードは隣に座るユアンの様子などもう気にも留めていないように、沿道で手を振り続ける観衆に手を振り返している。

そのときだった。


「あの少女は…」


溢れかえる人混みの中に誰かを見つけたのか、クリフォードがぽつりと呟く。

珍しく驚きを滲ませたその声にユアンが振り向くと、クリフォードはどこか一点を見つめているようだ。

その視線の先を追うように、ユアンもクリフォードが座る側の沿道を覗き込む。

するとそこには、ユアンにとって今の姿を一番見られたくない人物の姿があった。