懐かしい緩い勾配のある石畳の歩道を一歩一歩踏みしめるようにして歩く私の前を、後ろ姿でも美男美女! ってわかる位のオーラを発しながら歩いている二人。

 一体この人たちって何者なんだろう? 美人さんはなんで私を手招きしたんだろう? 頭の中でクエスチョンマークがぐるぐる回りっぱなし。

 私が横断歩道を渡り終えたのを見て、美人さんは艶やかに微笑んだ後、一度も振り返らずに彼と肩を並べて歩いてる。
 大胆なオフショルダーの白のブラウスに黒のペンシルスカート。真っ赤なミュールで石畳の上でも完璧なモデルウォークを披露している。

 彼は、と言うと、デニムシャツに裾をちょっと折ったベージュのチノパン、デッキシューズといった至ってシンプルなコーデ。長身で細マッチョな彼の背中にちょっとでいいから振り向いてお顔見せてくださいっ光線をずっと送ってはいるのだけれど、彼は右手をチノパンのポケットに入れたままで黙々と歩くのみ。

 一定の距離を保ったまま5分程歩いた頃、前を歩く二人が初めて角を曲がり私の視界から見えなくなってしまった。

 予感的中。私はがっくりと項垂れてしまう。

 ――そう、二人が入った路地の先にあるのは私が前に住んでいたアパート。まさか幽霊アパートにこんな形で舞い戻ることになるなんて……。

 でもっ!

 私はグイっと顔を上げ、気合いを入れるように小さく息を吐いた。

 夢の中の彼が現れたのと、美人さんの手招き。行き着く先が幽霊アパート。これってきっと何か繋がりがある筈。うん、絶対そうに違いない。このまま回れ右して逃げ帰っちゃったら、妄想リフレインしても彼の顔はぼんやりしたままで悶々の日々を送らなくちゃいけないのよっ!

「呉地結衣、いっきまぁあああすっ!」

 意味不明の叱咤激励を自分にした後、私はバッグの肩紐を両手でぎゅっと握りしめて路地に飛び込んでいった。