どうしてそんなに引っ越しを焦っていたのかって?

 それは……、言っても信じてもらえないかもだけど……、実は幽霊が出るようになっちゃったの。それも昼夜構わず。

 悪さをしたり脅かしたりするわけじゃあないんだけど、気が付くとすぐ側に気配を感じるようになって。うん、そう。気配だけ。はっきりとした姿は見えないの。だから誰に相談しても「疲れてるんじゃない?」とか「気のせい気のせい」って笑い飛ばされちゃってたんだよね。

 でも、とうとうある日、『見つけた』って耳元で男の人の声がして……。

 うきゃぁああっ! 思い出しただけでも鳥肌立っちゃう!

 ――私は嫌な思い出を振り払うように思い切り頭を振った。


 そんな理由があって美奈子のアパートに転がり込んだ私。

 部屋は駅から歩いて5分。日当たり良好。近所には商店街もあるので買い物にも便利! ってすごくいい物件を今までの家賃の半分以下で借りられるなんて本当にラッキーだったと思う。
 しかも、美奈子の明るさに圧倒されたのかどうだかわからないけれど、元の部屋にいた幽霊は引っ越してからは二度と現れなくなっていた。

 でも、ひと安心したのはほんの束の間。

 新しい彼氏が出来た美奈子(私が来る前に一緒に住んでいたのは、どうやらその前に彼氏だった人らしい)は、その彼のアパートに入り浸りになっちゃって……。それでも家賃は入れてくれてたから助かったのだけど、とうとう「彼氏と結婚したの! 幸せ~」ってハートの絵文字いっぱいのメールの後に消息不明になりました……。

 彼女の荷物は私が就活に出掛けている間に運び出したらしい。
 家具はそのままだったけれど服やアクセ、身の回りのものはきれいになくなっていた。――そう、ふたりで買ったコーヒーメーカーも。

 こざっぱりした彼女の部屋で、私はリクルートスーツのままでがっくりと膝から崩れ落ちましたよ、ええ。
 就職も決まらないこのままじゃ、この部屋の家賃、ひとりでずっと払えるわけがないー! ってね。