「――え? え? なにこれっ!?」

 アパートの玄関に続く道に足を踏み入れた途端、私の足はその場に釘付けになってしまう。

 数ヶ月前に住んでいたアパート。
 外観はちっとも変わっていないけど、目の前ではホラー映画みたいな光景が展開されていて……。

 状況を説明すると、まず前方に2階建てのアパート。
 部屋は四つあって、二階の向かって右側の角部屋が私の住んでいた部屋。
 その部屋の窓や外壁に幽霊っぽいものや妖怪の類みたいなものがわやわやととり憑いているのですよっ。それはもう盛りすぎじゃないって位にうじゃうじゃと! 

 ――そして、玄関の前に狛犬のように左右に立つ彼と美人さん。こんな奇想天外な風景をバックにしても絵になる美男美女って凄すぎる。

「ゆーいちゃん」

 語尾に『♪』がついたように弾んだ声に呼ばれて私が顔を上げると、美人さんが太陽みたいに眩しい笑顔でこっちに向かって手を振っているのが見えた。少し後ろに魑魅魍魎を控えての艶やかさに、私はもしかしたら変なのが見えているのは私だけなんじゃないかって一層ビビってしまう。

 美人さんは綺麗な形の唇の端をキュッと上げて満面の笑みを作ると、振っていた手をそのままおいでおいでの形に変えてみせた。

 今にも襲ってくるかもしれないってお化けたちの側に近づくのなんて絶対拒否したいところだけれど、美人さんの有無を言わせぬ圧倒的オーラに気圧され、及び腰で足を進める私。

 やっとの思いで二人の側まで来ると、艶やかな笑みをキープしたままで美人さんが私の右手を取った。

「んー……、とりあえず、はじめまして。でいいかな? 私は藤原桜子(ふじわらさくらこ)。こっちは息子の鳳也(たかや)よ。よろしくね」