「……東郷社長に、いたってことですか。許嫁。美都さん以外の」

「ど、どうしてわかったの?」


驚くわたしに、上倉は小さなため息をこぼす。


「美都さんはわかりやすいから。ちなみに、長所だから直さなくていいと思います」

「それ、長所……?」


苦笑しながらぽりぽりと頭をかいていると、上倉は前方を見つめたまま、つまらなそうな声を出す。


「……俺にそんなこと聞いてきたってことは、美都さん自身が、許嫁の存在を知っても、社長のことが好きってことですよね」


ああ、図星だよ……上倉。

なんだか第三者の口からそう言われると、私すごく諦めの悪いやつみたいだな……。

でも……社長は言ってくれた。許嫁のことはなんとかするって。

私はそれを信じたい。その言葉と、社長室で彼と交わした、甘いキスにこめられた思いを。


「ん……好き」


ぽつりと、暗いアスファルトに言葉をこぼすと、上倉がおおげさに肩を落とし、じとっとした眼差しを私に向ける。


「俺に告白してどうすんですか」

「え、あ、ゴメン! そういう意味じゃ……!」


……って、否定するのもなんだか彼を傷つけてしまうような。

ああもう、こんなときどうしたらいいか瞬時に判断できる恋愛スキルが欲しい。