「どうしたの? そんなに慌てて……」


上倉はすぐには答えられず、ぜーぜー荒い呼吸をしていたけど、しばらくすると照れくさそうに笑った。


「や、別に、理由はないスけど……会社出るとき美都さんの後姿が見えて、なんか勝手に走ってた」

「……そ、そう。こんな時間まで珍しいね。残業?」


二人で歩き出しながら、ぎこちなく話を逸らした私に、上倉がすかさず突っ込む。


「今俺の勇気ある発言スルーしたっしょ。……残業ですよ。美都さんのいない穴が大きすぎて」

「そっか……ゴメン。まだ、他の人もいるの?」

「いや、俺が最後。でも、残業して正解だったなー」


意味ありげに言って、私の方にちら、と視線を移す彼。

……私に会えたから? なんて思うのは自意識過剰っぽいけど、そう言う意味だよね、きっと。昨日、正面から告白されてるし。

私が社長のことを想っているのを知っていても、こうして好意を向けてくれるのは、私と同じような気持ちを抱えているから……なのかな。


「……ねえ上倉」

「なんですか?」

「私に、さ。許嫁とかいたらどうする?」

「は? 許嫁? いるんですか?」


いないけど、仮にだよ、と言って、上倉を見上げる。

はじめはきょとんとしていた彼だけど、次第に険しい顔になって、不機嫌そうな口調になる。