いつも笑顔でいる彼の真面目な顔が見れる数少ない貴重な時間を、多分彼女はこんなことに使いたくなかったと思う。



「ですよね……っ。すみませんでした」



そう言って走り去っていく彼女に少しの罪悪感。

盗み聞きをしてしまったこともあるけれど、やっぱり一番はあの子のこと。


都筑くんは、千代ちゃんのことしか見ないよ。


彼女に言いたくなったその言葉は、口に出さずに胸の奥へと仕舞いこむ。

相手が、どんなに可愛くても、もてていても彼はあの子のことだけをいつも見ている。

彼は、彼女が出て行ったドアを見つめながら辛そうに笑った。

彼が一体どんな思いでそのドアを見つめてるのか、彼女に対する同情なのか、自分と重ねたからなのか、わからなかった。

彼を助けたいだなんて、絶対彼にとって迷惑なことなのは分かっている。

けれど、それはあの子からの頼みでもあって私はやっぱりそれを全うしなくてはならないのだ。


私、何でこんなこと引き受けちゃったんだろ……。


色んな意味で、後悔先に立たずだ。



「秋月さん、そろそろ出てきなよ」