「職員室寄ってくるね」



こうして一緒に帰るのも6回目。

図書委員の私は帰るとき必ず鍵を閉めて、その鍵を職員室に戻す。

このことに、彼も既に慣れているだろう。

分かってはいても、やっぱり待たせたくなくて急いで昇降口へと走る。


もうちょっと速く走れればいいんだけどなぁ。


足が遅い私には少し、辛い距離にそう思った。



「よし、帰ろう」



私が靴を履いたのを見て、手を差し出してくれる彼の手はいつも温かい。

彼の手の上に自分の手を乗せると、彼は微笑んでくれる。

その笑みに、いつも悲しくなって胸がぎゅっと押しつぶされそうになる。


平然と、平然と……。


心の中で何度も呟いて、自分に言い聞かせる。



「さっき、何の本読んでたの?」



「んー、たぶん恋愛系かな」



いきなりきいてきた声に、曖昧に答える。


恋愛なんて、私とは無縁のものだとずっと思ってたから。

今、こうやって自分がなるなんて思ってなかったから。

この恋は叶わないって、分かってるから。

私はまた言い聞かせるんだ。

これは、恋なんかじゃない。

好きじゃないんだ。

って。


無意識のうちに唇を強く噛んでいて、慌てて噛むのをやめた。

唇から、少し血がでて口の中いっぱいに鉄の味が広がる。



「何その、かなって。その本、面白い?」



笑いながら聞いてくる彼に、私はまた曖昧に答える。



「たぶん。今度、借そっか?」



「あー、うん。頑張ってみる」