「何でだろうね」



誤魔化しているのか、本気でわからないのか彼の表情と声からは何もわからなかった。

ただ、繋がっている手が更に強く握られていつもの彼じゃないことは確かだった。

聞いてはいけないんじゃないかって思ったけれど気になってしまうのは探究心が強いからだと思いたい。



「何でって…」



「俺さ、秋月さんのこと利用しようとしたんだ。忘れられない人を……忘れるために」



ちよちゃんだ……。


彼の忘れられない人と聞いて真っ先に浮かんだのは、ちよちゃんだった。

彼は、私とちよちゃんがそこまで親しい仲だということは知らないと思う。

私だって、彼と同じ高校に行く人じゃなかったらちよちゃんと仲良くなってなかっただろうし。

ましてや、あんなこと頼まれるなんて思ってもいなかったから。



「秋月さんの家ここで合ってる?」



そう言われいつの間にか下がっていた視線を上げると、秋月という表札がかかった見慣れた家が目の前にあった。