彼の低い声に、ふと現実に戻される。

いつもと何ら変わりのない彼の笑みが、今の私には悪魔にしか見えなくて顔が引きつる。

少しだけ覗いていた顔を、しっかりと出す。


「ひ、久し振りだね?」



咄嗟に出てしまった言葉は、なんとも間抜けとしか言いようがない。


久し振りとか、30分くらい前まで同じ教室で授業受けてたし。

毎日顔合わせてるから、今のはおかしすぎるっ!



「うん、ついさっきまで一緒にいたよねー」



案の定、私の言葉には彼も突っ込んでくる。



「しょ、しょうがないじゃんか。だって委員会の仕事だもん……」



徐々に小さくなる声に、彼は吹き出す。

何事かと見てみれば、彼は図書室とは似合わずお腹を抑えながら大声で笑っている。


うん、こっちの笑顔の方がいい。


そう思うけれど、本人には絶対に言わない。

彼にそんな事言ってしまったら、調子に乗るのが目に見えてわかる。



「うん、実は知ってた」