工業高校のイケメン達に愛されて【上】




リビングの隣にある和室には、お父さんのお仏壇が飾られている。


あたしのものごころがつく前にいなくなってしまったから写真でしか見たことないけど…できれば、会ってみたかったな。


だけど、ひとりでお母さんがあたしを育ててくれたことに、とても感謝してるの。


お母さんはあたしのとってもとっても、大切で尊敬している人。



「お母さん、受験…失敗しちゃってごめんね…。」



大切な人なのに、受験に失敗して…。


親不孝ものだな、あたし…。


お母さんは変わらず笑顔で接してくれているけど、もしかしたら悲しんでいるかもしれない。





「いいのよ緋奈。無事に高校進学は決まったんだもの。あなたが高校生活楽しんでくれれば、お母さんそれでいいの。がんばってね?」


「………………。」



ああ…そんなふうににこりと笑って言ってくれるお母さんは、やっぱり優しい。



「緋奈の進学した学校が有名な進学校でも、そうじゃない高校でもお母さん気にしないから。ね?」


「う、うん…。」



お母さんの笑顔とその言葉で、あたしの受験の失敗に悲しんでなんかいない。って、わかった。


あたしを応援してくれているのがすごく伝わってくる。


…でも、今のところ高校生活を楽しめる自信は…あまりないんだけど。


主に人間関係とか工業関係の勉強面で心配なんだけど…それは、やっぱり自分で一生懸命頑張らないとだよね。





それに、あたしがいつまでもクヨクヨしてたら、お母さんを悲しませちゃうよね。


自信を持って、頑張らなきゃ。



「お母さん、あたし3年間頑張るね!」



あたしは両手に拳を作ってそういうと、お母さんはまたにこりと笑って、台所へと歩いていった。


絶対ちゃんと卒業して、親孝行するんだ。


あたしをひとりで育ててくれたお母さんに恩返しするんだ!


…そう、工業高校って、女の子が少ないイメージが前からあるんだけど。


…きっと女の子も、少人数かもしれないけど入学してくる子はいるよね?


そしたら、仲良くなりたいな。



男の子も、今は苦手だけど…頑張って仲良くなれたらいいな______。





「へへっ。いい感じかな?」



全身ミラーに映る、新しい制服を着た自分。


にんまりと笑って、ミラーの前でくるりと一回転した。


中学校のときの制服は紺のセーラー服に白いタイだったから、ブレザーとリボンの制服を着るのは新鮮な気持ち。


あたしもついに高校生になったんだな、と改めて実感した。


華のJKってやつだよね!


思う存分、青春を謳歌したい!


…それにしても、うーん、なんだかちょっとスカートが短いかも…。


スカートを折ったりしなくても膝が見えちゃう。


でも、そのうち慣れるよね。きっと!


ショートボブの髪は、いつも通りドライヤーでセットした。



…ふう。友達、できるといいな。


今日はついに入学式。


あたしの高校生活がスタートする。


人生で一番緊張してると言っても過言ではない。


入試の時より、緊張してる気がするもん。





どきどきと音を鳴らす心臓に手のひらを当てふぅーっも息を吐いた。


女の子いますように…女の子いますように…!!


1人でもクラスにいてくれたら救い以外のなにものでもない。


そう考えながら、玄関に向かい新品のローファーを履く。


初めて履くから、かたくて履きにくいや。


慣れるまで、足が痛くなりそうだなぁ。



「制服似合ってる、かわいいわよ、緋奈。」



スーツを着て、入学式に参列する準備が整ってるお母さんもあたしの制服姿を褒めてくれた。



「ふふ、ありがとう。お母さん!」



嬉しくて、にこりと笑顔でお母さんにお礼を言い、2人で自宅をあとにした。





あたしが通う左右田工業高校は、家の最寄駅から3駅電車に乗って、そこから歩いて5分のところにある。


電車通学なんて、高校生っぽい…!


ガタタっと揺れる車内に人混みの空間は、思ったより体力を使うみたい…。


今まであまり電車に乗ったことがなかったから、これも慣れるまで大変。


自宅の最寄駅から3駅、10分弱で学校の最寄駅に着いた。


何人か…あたしと同じ工業高校の人いるかも。


制服が同じだ。


だけど…。



「女の子…ひとりもいない…。」



最寄駅でも、学校までの通学路も…。



ひとりも、女の子とはすれ違わなかった。





なんだか変だな…と疑問に思い、思わずお母さんにたずねた。



「ねえお母さん。工業高校って、女子もいるよね…?」


「んー…そうね。一応緋奈が通う左右田工業高校は、共学のはずだけれど…。」



そう…左右田工業高校は、共学のはずなのだ。


女子が見当たらないことをお母さんも不思議に思っていると思う。


う、うそでしょお…?


5分ほどで着いた、あたしが通う高校。


正門を次々とこの高校の生徒が潜り抜けていく。


あたしは忙しなくあたりをキョロキョロと見回した。


けど、どこを見渡しても…やっぱり女の子は見当たらない。


それどころか…。





校内をぐるりと見回してみるけど、本当に…男の子しかいない…。



「なあなあ、あの子新入生かな?」


「えっ!?女の子!?」


「ヒュー♩かわいいじゃん!」



男の子たちはみんな物珍しげに、あたしのことを見ている。


生徒の中には、髪の色が明るかったり制服を着崩していたり周りを睨みつけながらだらだら歩いてる人だったり…そんな人たちがちらほらいて、怖い…。


こ、これは一体どういうこと…?


ていうか、やっぱり噂通り…?!



「緋奈、大丈夫…?」


「お、お母さん…。」



お母さんは心配そうにあたしを見下ろしているけど…あたしはただ眉を下げてお母さんを見上げることしかできなかった。


工業高校は男の子の比率が多いとはいえ、数人くらいは女子生徒がいるって思っていたよ。



でも…もしかしたらここって…。





「緋奈、お母さん先に体育館行ってるから…もしなにかあったら、すぐに連絡してね?」


「う、うん…ばいばい…。」



保護者と新入生は集合場所が違うみたいで。


あたしたち新入生は…新クラスに登校ということになっている。


昇降口にクラス表が掲載されているらしい。


あたしたちは昇降口へ着くと、お母さんはその奥にある体育館へヒールを鳴らして歩いて行った。


途端に心細くなる。


大丈夫、大丈夫…ここは一応共学の学校。


まだ女の子と会えてないだけかもしれない。


大丈夫、大丈夫…。


あたしは、必死に自分に言い聞かせた。


女の子がいないなんて、そんなの信じたくないです、神様!!!!