俺は転びそうになり、慌てて手すりに掴まった。

 フラッシュバックというのだろうか。突然、目の前に映像が映し出されたのだ。それは……

 緑に包まれた広い公園のような場所で、ガキどもが何かを投げ合い、その間を、両手を上げながら、一生懸命に脚を引きずって歩く少女の姿。ガキどもが投げているのは、少女の小さな赤い靴だ。


 な、何なんだ、今のは。


 とても重要な事に思えたが、今はそれを考える暇がない。俺は顔を振って映像を消し去り、再び走った。


「小島! おまえ、何やってんだよ!」


 俺が走りながら叫ぶと、小島は足を止め、俺を振り向いた。なおも俺は近付き、詩織を掴む小島の手を上から思いっきり叩き、やつの胸ぐらを掴んで捩じ上げた。


「きさまは、何のつもりだ?」

「やめてくださいよ。メールは見てないんですか?」

「見たよ。だから飛んで来たんだ」

「だったら解るでしょ。あんたがこの女をオモチャにしてる事、俺は黙ってあげようとしてるんですよ。その代わり、一晩だけこいつを貸してもらえればね。安いもんでしょ? もしそれが会社にバレたら、あんたは終わりなんだから」


 俺が手の力を緩めると、すかさず小島は俺の手を払い、ひん曲がったタイを直し始めた。


「言ってる意味が解らんな。俺がこの子を、いつオモチャにしたんだ?」

「惚けないでくださいよ。あんたがこの女を自分のアパートに住まわせてる事、俺は知ってるんですよ」

「それは事実だが、答えになってないぞ。なぜオモチャなんてふざけた言葉をおまえは使うのか、それを聞いてるんだ」

「そんな事、決まってるじゃないですか。遊びだからですよ。それともあんたは、本気でこの女を好きとか言うんですか? こんな、びっ……」


バキッ


 小島が、また詩織を侮辱する言葉を言いそうになり、詩織にそれを聞かせたくない俺は、咄嗟にやつの横っ面を思いっきり殴った。