あんの野郎……!!

 俺は一瞬だけ遅れたが、小島のメールの意味を理解し、すぐに職場を飛び出した。

 何がオモチャだ。何が安い口止め料だ。何がメリークリスマスだっ!


 おそらく小島は、俺達の後をつけるかし、俺と詩織が一緒に暮らしている事を知った。そして、詩織に付き合うように言ったんだ。口止めの代償として。

 そうか。夕方詩織のスマホに来たメールは、小島からだったんだ。おそらく小島は、飯に付き合えと言ったのだろう。だから詩織は、俺に飯だけと言ったのだと思う。

 もちろん小島は、飯だけで詩織を帰すつもりはないだろう。女癖の悪いあいつの事だから。あるいは詩織も、それに気付いていたのかもしれない。だからあんな、悲しそうな顔をしていたのだろう。

 詩織も詩織だ。なぜ俺に言ってくれなかったんだ?

 いや、そうじゃない。詩織を責める事は出来ない。詩織はいつだって、俺の事を思ってくれた。俺に迷惑を掛けないようにと、いつもそれを最優先してくれた。俺が詩織を気遣わないといけないのに、まるで逆じゃないか。

 俺が悪いんだ。俺が優柔不断だったから……

 ああ、くそっ!

 小島に組み敷かれた詩織の姿を想像してしまい、顔を振ってそれを消し去り、駅に向かって俺は走った。

 詩織の脚では、そう遠くまでは行ってないはずだ。頼む、間に合ってくれ!


 駅の近く、路肩の植え込み越しから、駅へ通じる地下が見える場所がある。俺はそこに差し掛かると走る速度を落とし、地下に目を凝らした。すると……

 クリスマスの、煌びやかなイリュミネーションが並ぶ通路を行き交う、大勢の人の中に、俺は詩織の姿を見つけた。

 男に無理やり手を引かれ、歩かされている詩織の姿だ。男は、もちろん小島だ。


 あっ。何やってんだよ、あいつは……


 詩織の片方の赤い靴が脱げたが、小島がそれに気付く様子はなかった。

 俺は階段を、一段飛ばしで駆け下りて行ったのだが……