「バカ言え。おまえが“思うよ”って言うから、“そうだな”って言っただけだろ」

「じゃあ興味ないの?」

「ないね。もちろん、部下としての興味ならあるが、お前の言う意味は違うだろ?」

「まあね」


 とは言ったが、実は少し興味を持ったかもしれない。“守ってやりたい女”というものに。


「あの子さ……あれ、名前なんだったっけ。あんた、憶えてる?」

「忘れた」

「そっか。確か“た”何とかなんだよね。高橋……違うな。高田……でもないか。ああ、ここまで出掛かってるのに、年かなあ。高木、田中、田山……」

「高宮詩織だろ?」

「あ、そうそう。って、忘れてないじゃん。しかもフルネーム」

「すまん」


 本当は憶えていたが、わざと言わなかったんだ。俺がその新人に興味があると、野田に思われたくないから。しかし実際のところはどうなんだろう。自分でもよくわからなかった。


「詩織ちゃって、幸薄い感じなのよね……」

「なんだ、それは?」


 野田が妙な事を言った。しかも、名前を忘れてたくせに、もう"ちゃん”付けって……


「そういう感じなのよ。あなたも会えばわかるわ。だから、守ってあげたいってなるのよね。気を付けてあげてよね?」

「何をだ?」

「決まってるじゃない。2課の男どもよ」

「はあ?」

「特に小島君。あの子が一番あぶないわ。手が早いらしいから」

「おまえなあ……」

「なによ?」

「32の男を捕まえて、“あの子”って言うか?」

「え? そこ? 私達、もう40よ? 8つも下なんだから、“あの子”でしょう」

「それもそうだな」


 8つも下、かあ……