「あんな女と、私や詩織ちゃんを一緒にしないでくれる?」

「いや、そういう事では……」

「ううん、あんたはそういう事を言ってるのよ。失礼しちゃうわ。そもそもは、あんたに女を見る目がなかっただけでしょ? つまりは、あんたがしくじっただけよ。そりゃあ、ああいう女が世の中にいるのは事実だけど、みんながみんなって思うのは、女性全体への偏見よ。女性蔑視よ。許せないわ」

「解ったから、そんなにプリプリするなよ」

「本当に解ったの?」

「ああ、解った、と思う」

「それならよし。解決ね?」

「でもなあ……」

「何なのよ。まだ問題があるわけ?」

「女嫌いが俺の自業自得だって事は解ったが、俺は人間そのものを信用出来ないんだ」


 そう、つまり人間嫌いだ。俺はある事があってから、人という生き物を信用出来なくなってしまったんだ。例えば笑顔の人を見て、しかし心じゃ全然違う事を考えてるかもしれないとか思うと、気味が悪くて吐き気がするんだ。


「依田君の事ね?」

「あ、ああ」


 その名前を耳にするのは久々だが、途端に俺の胸はムカムカし、せっかく食べたマスター手製のサンドイッチだが、吐きたくなってしまった。


「あれはね、私もショックだった。すごいいい子だと思ってたから、今でも信じられないわ」


 あれは、およそ一年前の事だった。

 朝、俺が出社すると、机の上に茶封筒が置いてあった。何かなと思って中を見ると、何かを印刷した紙が数十枚も入っていた。そしてその何かとは、どうやら依田が誰かと交わしたメールを印刷したものらしい。それを誰が、何の目的で置いたのかはついに判らず、要するに怪文書だ。