「昔のあんたは、もう少し違ってたのにね……」

「それは言わないでくれ」

「ごめん。お代わりしようか?」

「そうだな。ただし、それで終わりにしよう。明日も仕事だから」

「そうだね」


 俺はマスターに水割りのお代わりを頼んだ。マスターの歳は50か、もう少し上だろうか。無口で余計な事は言わず、いつも穏やかな笑顔を浮かべている。俺とは正反対だが、そんなマスターを俺は結構気に入っている。


「明日って言えばさ、新人ちゃんが来るね!」

「ああ、そうらしいな」

「可愛いのよねえ、あの子。履歴書の写真見たでしょ?」

「見たよ。でも、あれは昔の写真だろ?」

「え? そんな事ないでしょ? まんまだと思ったよ」

「にしては若過ぎないか?」

「そうなのよ。あの子、とても32には見えないの。いいとこ、そうだなあ、25か6にしか見えないわね」

「ふーん。そうなのか」


 俺は興味がないから適当に相槌を打つ事にした。野田はこういう、人の話が好きなところが玉に瑕だ。喋り出すと長いんだよな、これが……


「障害者雇用だって事、もちろん知ってるよね?」

「ああ」

「右の膝を伸ばせないんだって」


 右か……


「可哀想だよね?」

「そうだな」

「あの子を見てたら、キュンキュンしちゃった。私が男だったら、守ってあげたいなあって思った。あんたもそう思うよ、きっと」

「そうだな」

「へ?」

「ん?」

「やだ。興味があるの? あの子の事……」