「確かに言ったが、だから?」

「もう…… おにいちゃんは一人で運ぼうとしてるでしょ? だから運べないって。私もいるんだから、二人で運べばいいじゃない。でしょ?」

「そうは言っても、階段があるんだぜ。無理だって……」

「そんなの、やってみないとわからないじゃない。いざとなれば、落っことしてもいいんだし」

「おまえ、落っことすって……」

「少しぐらい傷付いても平気よ、これは」

「ああ、確かに……」


 木製の家具とか電化製品だと、落とすなんて論外だが、布張りのこのソファーなら、多少の事では酷い事になりそうもない。詩織って、やっぱり頭いいや。

 という事で二人で持ち上げて運んでみたら、呆気ないぐらいに簡単だった。階段はちょっときつかったが、落とす事なく降ろす事が出来た。



 俺のアパートに戻り、再び共同作業でソファーを運び込み、他の荷物や、スーパーに寄って買った食材なんかも全部運び終えた。


「疲れたな?」

「うん」


 俺達は今、取りあえず部屋に置いた詩織のソファーに並んで腰掛けている。やっぱりこのソファー、持って来て正解だったな。


「詩織、頑張った俺にご褒美くれないか?」

「え? 何を?」

「何じゃなくて、キスを」

「えー、そんなの恥ずかしいよ」

「頼むよ。いいだろ? ほら」

「わかったから、目をつぶって?」

「ん」


 俺が目をつぶって待つと、「恥ずかしいなあ」と詩織は文句を言いながらも、チュッと音をさせて俺の口にキスを落とした。

 その瞬間、俺はパッと目を開いて至近距離の詩織の顔を拝み、詩織を抱きしめた。


「目を閉じてって言ったのに……」

「閉じてたさ。今度は俺が詩織にご褒美をやるよ。お疲れさん」


 と言って俺から詩織にキスをした。もちろん、舌を絡ませる濃厚なやつを。

 そして、そのまま詩織をソファーに押し倒し、スウェットの裾から手を差し入れていったのだが……


「ダメ」

「なんで?」

「車を返しに行かなきゃでしょ?」

「チッ。そうだった」


 俺は渋々、詩織から離れた。


「気を付けてね? 私は、お風呂を沸かして待ってるから」


 詩織は、恥ずかしそうに頬を紅く染めて言った。


「お、おお。すぐ戻るから」


 やべえ、妄想しそうだ。車の運転、マジで気を付けないとだな。