「高宮、今度は〝直接”キスをするから、覚悟はいいか?」

「は、はい!」


 高宮は固く目を閉じ、口を真一文字に結んで俺からのキスを待っていた。そんな高宮の、予想通りの仕草が愉快で笑いそうになったが、俺はそれを堪え、高宮に顔を近付けると、「ちゅっ」と音をさせ、軽く触れるだけのキスをした。


「あの、今のがキスなんですか?」


 高宮は、大きな目をパチッと見開き、不思議そうに訊ねた。


「一応な?」

「そうですか。私、キスってもっと……」

「いやらしいものだと思ったか?」

「は、はい……」

「実は今のは本物のキスじゃない。挨拶程度のものだ。おまえが驚くといけないから、遠慮したんだ」

「そうなんですか?」

「そうさ。本物のキスはあんなものじゃない。次の段階に移りながら、それを嫌って言うほど教えてやるから」

「はい、お願いします」


 俺は着ていたTシャツの裾を持ち、ガバッとそれを脱いだ。途端に高宮が、ハッと息を飲むのがわかった。


「高宮……」


 俺は高宮のむき出しの肩に手を触れ、その体をベッドにゆっくりと押し倒そうとしたのだが……


「ちょっと待った」


 俺は大事な確認事項を思い立ち、それをとどまった。


「今聞いておかないと意味がないから聞くが、おまえ、初めてだよな?」

「はい」

「俺なんかでいいのか? 大事に取っておいたんじゃないのか?」

「いいんです。課長に抱いてほしくて、取っておいたようなものですから。夢だったんです」

「夢、かあ。でも、課長じゃないだろ? 課長……みたいな男だろ?」

「そう解釈していただいて結構です」

「あはは。またそれか。じゃあ……」


 俺は再び、高宮を押し倒そうとしたのだが……


「ちょっと待ってください」


 今度は高宮が、俺を押し止めた。