この時期、シャワーでは寒いので、俺は大急ぎで浴槽を洗い、お湯張りを始めさせつつ、電気ケトルで湯を沸かし、インスタントのコーヒーを2つ淹れた。


「インスタンドで悪いけど」


 そう言いながら、高宮の前のローテーブルに置いたマグカップはピンク。野田が何度か使った物だが、高宮はいやがるだろうか。


「ありがとうございます」


 と言って微笑んだ高宮の顔は、明らかに強張っていた。しかしそれは、マグカップを気にしたのではない事は明らかで、おそらくこれから起こるであろう事を意識し、テンパっているのだと思う。無理もないが。


「熱いから、フーフーして飲むんだぞ?」

「やめてください。私、子どもじゃないんですから……熱っ」


 やはり高宮は、かなりテンパっているらしい。


「熱っ!」


 それは俺も同じだったのだが。


 そうこうしている内に、お湯張の終わりを告げる妙な声のアナウンスが聞こえた。


「高宮、先に入って来い」

「いいえ、課長からどうぞ」

「いや、お客様からどうぞ」

「いいえ、男の人からどうぞ」


 結局は俺が折れ、先に入らせてもらう事になった。


 俺は速攻で風呂を済ませ、タオルで頭をゴシゴシしながら部屋に戻ると、高宮はテレビを観ていた。右足を投げ出して座っており、ソファか椅子を買わないといけないなと、俺は思った。


「お待たせ。次はおまえの番な?」

「えっ? もうですか? ずいぶん……きゃっ」


 高宮は俺を振り向きかけ、慌ててそっぽを向いた。俺の裸体に驚いたらしい。と言っても大丈夫です。履いてますよ。トランクスを。

 高宮が驚くのはわかっていたが、俺は汗が引くまでシャツは着ない派なんだ。いつもはパンツも履かない。


 真っ赤な顔でバスルームへ向かう高宮を見送ると、俺は隣の部屋、つまり寝室にしている方の部屋へダッシュした。いわゆる、ベッドメイクをするために。