「じゃ、また来週な?」


 高宮と離れるのは非常に名残惜しいのだが、俺が降りる駅に着いてしまった。俺の方が先に降り、高宮は確か3つ先ぐらいの駅で降りるはずだ。

 ところが、なぜか高宮は返事をしてくれず、俺が首を傾げながらドアに向かって歩きだすと、なんと高宮は俺に付いて来た。俺の腕を小さな手で掴んで。


「お、おい」

「ドアが閉まっちゃいますから」

「そ、そうだな」


 ドアが閉まる寸前に、俺と高宮はなんとか電車から降りる事が出来た。


「ふうー、あぶなかった。しかしおまえ、なんで降りたんだ? この駅に用事でもあるのか?」


 と言ってはみたが、こんな夜遅い時刻に高宮に用事があるとは到底思えず、であれば……


「課長のお宅に行かせてください」


 もしかして、とは思ったが、高宮の口からはっきり言われ、俺は面食らってしまった。そして、内心は“やったあ!”と喜んだのだが、大人として、かつ上司として、そうたやすく“いいよ”と言うべきではないと思い、


「それはまずいんじゃないか?」


 と言ってみた。高宮に、“そうですね。やっぱり帰ります”なんて言われたらどうすんだよ! と、自分にツッコミを入れる俺だったのだが……


「まずくないです」


 高宮は即答だった。そう言われたら仕方ない。女の子に恥をかかせちゃ、むしろそれこそ大人げないってもんだろう。


「狭いアパートだし、散らかってるぞ?」

「構いません」

「あ。着替えがないじゃないか。どこかのコンビニで……」

「大丈夫です。持ってますよ」


 高宮は、今流行のお笑いの、“大丈夫です。履いてますよ”みたいな言い方をした。もしかして、実際に真似たのかもしれない。てな事は置いといて……


「だからバッグが大きいのか。おまえなあ……」


 びっくりした。という事は、高宮は朝からそのつもりだったわけだ。高宮って、まだまだ予測不能なところがあるな。変人だしな。

 あ、そうか。野田が別れ際に苦笑いしたのは、コレに気付いたからなんだ……


「俺が持つよ」


 俺は半ばひったくるように、高宮の大きな手提げバッグを持った。いわゆる“お泊りセット”が入っているらしい、結構重たい高宮のバッグを……