「課長と恵子さんは、恋人同士だったんですか?」

「おまえならそう言うと思ったよ」

「じゃあ……」

「いや、それはない。少なくても俺は、野田に恋愛感情を抱いた事は一度もない」

「あんなに素敵な人なのに?」

「ああ。我ながら不思議だけどな。“友達以上、恋人未満”とかいう言葉があるよな? 俺は、その言葉はおかしいと思うんだ。友達と恋人に、上も下もないと思うから。次元が違うって言うかさ……」

「それ、わかるような気がします。私に友達はいませんけど」


 と言ってから、「あっ」と高宮は小さく言い、不思議そうな顔で俺を見た。


「だったら、どうして……?」

「俺は野田を抱いたのか、って聞きたいんだろ?」


 おそらく純情な高宮は、その話題が恥ずかしいのだろう。頬を紅く染め、コクッと頷いた。


「男って生き物は、恋愛感情がなくても女を抱けるのさ」

「嘘っ」

「いや、悪いが本当だ。女もそうなんじゃないか?」

「ち、違います。女性は、好きな人とじゃないと……」


 高宮は想像でもしたんだろうか。頬どころか、顔全体が真っ赤になった。


「そういう女性もいるのかな。野田が本当はそういう女性で、しかし俺はそれに気付いてなかった。そう考えればつじつまが合うな?」

「し、知りません」


 高宮には、こういう話は無理かな。こいつはまだ、処女だと思うから。


「俺のこと、嫌いになったか?」

「なりません」


 おお、即答か。良かった。


「でも、軽蔑したろ?」

「そんな事はありません。でも……」

「でも、何?」

「もう、しないでほしいです」

「野田とはしないよ。もう一年以上もしてないし」

「ち、違います。恵子さん限定じゃなくて、好きでもない人と、その……」

「何の事かな。はっきり言ってくれないと解らないんだけど?」

「意地悪しないでください」

「あはは。わかった。もうしないよ」


 たぶん、だけどな。

 高宮って、結構ヤキモチ妬きなんだな。憶えておこうっと。