それから間もなくお開きとなり、俺達3人はバーを出て駅へと向かった。

 俺と高宮は同じ地下鉄の路線を使い、方向も同じだが、野田は別の路線のため駅も違う。


「野田、お疲れ」

「お疲れさまです!」

「うん。お疲れ……って、あれ?」


 ん? なんだ?

 そこで別れるべく、俺と高宮に向き合った野田は、何やら高宮の下の方を凝視した。すると高宮は、大きな手提げバッグを体の後ろに隠すような仕種をした。

 そう言えば、今日の高宮のバッグはやけに大きい気がする。いつもこんな大きなバッグを持ってたっけか?


 野田はなぜかフッと笑うと、「お幸せにね」と言って俺達に背を向け、歩いていった。

 俺は野田の後ろ姿を見ていられなくなり、「行くか?」と言って高宮の肩に手を触れたのだが……


「痛い! 何なのよ、もう!」


 という野田の叫ぶ声が聞こえ、思わず後ろを振り向いた。

 野田は片足を上げ、ケンケンでもするかのような仕種をしていた。おそらく、鉄のポールか何かを足で蹴とばしたのだと思う。


「野田! 大丈夫か!?」


 そう俺が叫ぶと、


「私の事はほっといて!」


 と返って来た。


「恵子さん、どうしたんだろう……」

「さあな。行こう?」

「うん……あ、解ったかも!」


 高宮は立ち止まり、目を大きく見開いて俺を見つめた。


「もしかして、恵子さんは課長のこと、す……」

「言うな!」

「え?」

「言わないでくれ。解ってるから」

「私……バカだ。自分の事しか考えてなかった。課長、行ってあげてください。恵子さんのところに……」