「部長には言ってないわよ」

「嘘って、そっちなのかよ？」


　紛らわしいなあ。


「そうよ？ 他に何かあるの？ 私だって大げさにはしたくないもの。部長には午後休をもらっただけよ」


　午後休？

　ああ、半日休の事か。午前または午後だけの有給休暇で、１回あたり0.5日の消化になるあれか……


「そんな簡単に半日休を取っていいのか？ っていうか、なんで帰るんだ？」

「たまにはいいでしょ？ 若い子はしょっちゅう取ってるもの。“お腹が痛いので午後休でヨロシク”とか言っちゃって。こっちは殆ど年休を残してるっていうのにさ……」

「それはこっちも同じだよ。それより、なんでおまえ午後休取ったの？」


　野田のやつ、休暇の件で熱くなり、肝心な方の質問に答えなかった。つまり、なんでこのタイミングで野田は帰るのかを。


「決まってるじゃない。詩織ちゃんと一緒に帰るためよ」

「え？」

「詩織ちゃん、今日はもう仕事するのは無理でしょ？ 帰してあげなよ」

「ああ。確かにそうだな」

「詩織ちゃんとゆっくり話して、来週から頑張れるか聞いてみるから。後で結果を知らせるわ」


　来週？ ああ、今日は金曜か。高宮にとってはちょうど良かったかもしれないな。二日もあれば、気持ちも落ち着くだろう。


「悪いな？ いや、それも総務の仕事だっけか？」

「違うわよ。ただのお節介。詩織ちゃんは妹みたいに可愛いんだもの。あなたもそうでしょ？」

「そ、そうだな」


　なんだ。それで“手放したくない”につながるのか。俺の気持ちは野田のとは違うのだが、それは言わないでおこう。