「今度は何をしてくれたの? 鬼課長さん」
野田は来るなりそう言って、ため息をついた。
今朝と同じく、俺はまた野田に助けを求め、なぜか少し時間は掛かったが、野田は喫茶店まで来てくれた。
ベージュの薄手のコートを羽織り、ハンドバッグを手に提げた野田の姿に若干の違和感を覚えたが、女はそういうものだったなと思い直す。つまり、女はちょっとした外出でもしっかり装備するもの、だと思う。
「いや、俺は何も……」
「本当かしら」
とか言いながら、野田は素早く高宮を見やり、コートを脱ぎながら、高宮とはテーブルをひとつ隔てたテーブルの席に腰掛け、俺もその向かいに腰掛けた。そして「飲んだばかりなのにな」と言いながら野田はコーヒーを頼み、俺もそうした。午後1時を大きく過ぎ、店内の客はまばらだった。
高宮は今は泣き止み、しかしじっと俯いたまま放心したような状態だ。彼女が今、どんな心境でいるのか俺には解らない。そもそも、なんで泣いたのかさえ解っていないのだから。
「部長を捕まえるのに時間が掛かっちゃった。ごめんね?」
「えっ? 部長って、システム部のか?」
「違うわよ。総務の部長に決まってるでしょ?」
「じゃあおまえ、総務部長に高宮の事を話したのか?」
「当たり前でしょ? 今朝の件も報告してるし」
「なんだよ……。それじゃあ、話がおおごとになるじゃねえか……」
おそらく総務部長からうちの部長に話が来て、俺は部長に呼び出されて問い詰められるだろう。そして……
「そうねえ。詩織ちゃんは2課以外の部署に再配属、って事になるわね。たぶん」
「それは困るよ」
「どうして?」
「それは……高宮のキャリアに傷が付くっていうか……」
「素直に、手放したくないって言えば?」
え、嘘だろ?
野田のやつ、もう俺の気持ちに気付いたのか? 俺自身でさえ、さっき気付いたばかりなのに?
「嘘よ」
「え?」
野田は来るなりそう言って、ため息をついた。
今朝と同じく、俺はまた野田に助けを求め、なぜか少し時間は掛かったが、野田は喫茶店まで来てくれた。
ベージュの薄手のコートを羽織り、ハンドバッグを手に提げた野田の姿に若干の違和感を覚えたが、女はそういうものだったなと思い直す。つまり、女はちょっとした外出でもしっかり装備するもの、だと思う。
「いや、俺は何も……」
「本当かしら」
とか言いながら、野田は素早く高宮を見やり、コートを脱ぎながら、高宮とはテーブルをひとつ隔てたテーブルの席に腰掛け、俺もその向かいに腰掛けた。そして「飲んだばかりなのにな」と言いながら野田はコーヒーを頼み、俺もそうした。午後1時を大きく過ぎ、店内の客はまばらだった。
高宮は今は泣き止み、しかしじっと俯いたまま放心したような状態だ。彼女が今、どんな心境でいるのか俺には解らない。そもそも、なんで泣いたのかさえ解っていないのだから。
「部長を捕まえるのに時間が掛かっちゃった。ごめんね?」
「えっ? 部長って、システム部のか?」
「違うわよ。総務の部長に決まってるでしょ?」
「じゃあおまえ、総務部長に高宮の事を話したのか?」
「当たり前でしょ? 今朝の件も報告してるし」
「なんだよ……。それじゃあ、話がおおごとになるじゃねえか……」
おそらく総務部長からうちの部長に話が来て、俺は部長に呼び出されて問い詰められるだろう。そして……
「そうねえ。詩織ちゃんは2課以外の部署に再配属、って事になるわね。たぶん」
「それは困るよ」
「どうして?」
「それは……高宮のキャリアに傷が付くっていうか……」
「素直に、手放したくないって言えば?」
え、嘘だろ?
野田のやつ、もう俺の気持ちに気付いたのか? 俺自身でさえ、さっき気付いたばかりなのに?
「嘘よ」
「え?」