そして高宮は、目に涙を溜めたまま、笑おうとした、らしい。笑顔になってないっつーの。


「ほら、お茶でも飲め」

「はい」



「おまえ、本当は赤貝が苦手なんだろ?」


 高宮は、子どもみたいな小さい両手でデカい湯飲みを持ち上げ、お茶を啜っていたが、俺がそう聞くと顔を横に振った。


「高宮。俺は嘘が嫌いだ」


 俺が低い声で言うと、高宮はピクッと反応し、湯飲みをゴトンとテーブルに置き、


「すみませんでした」


 と言って俺に頭を下げた。あ、確かこんなシーン、テレビの娯楽番組にあったよな。二人が向かい合って座り、相手の嫌いな食べ物を当てるやつ。あっちは確か、「参りました」だったけどな。


「私、貝は苦手です。あと、鶏肉と、シイタケと、バジルと、キクラゲと……」

「わかった、わかった。いっぱいあるじゃねえか。それなのに、なんで好き嫌いはない、なんて言ったんだ?」

「それは……」


 高宮は口ごもった。まだ正直になりきれないようだが……


「おまえ、もしかして俺に好きなものを食わせたかったのか? 俺が苦手なものを貰うって言ったから」


 高宮は、頬をポッと紅く染め、コクッと頷いた。

 再びドキューンと音がしたと思った。俺の胸のハートが撃ち抜かれた音だ。

 高宮みたいな可愛い子に、そんな事をされたら誰だって惚れちまうと思う。もちろん、俺も。

 こんな事は、野田にさえ言えそうになく恥ずかしいが、もうこの気持ちに抗う事は不可能だと、俺は認めざるをえなかった。