森さんは俺を見て、一瞬で顔を強張らせた。俺と玉田の会話を聞いていたのだろう。おそらく森さんに限らず、職場中のみんなが俺と玉田の会話に聞き耳を立てていたと思う。高宮を除いて。

 森さんは速足で俺の元へやって来た。普段は年上の人を呼びつけるような失礼な事をする俺ではないが、今はあえてそれをした。そうせずにはいられなかった。

 と言っても、年上で、会社が違う森さんに、俺は説教をするつもりはない。ただ、少し釘を刺すだけだ。おそらく森さんは、部長と同じ考えだと思うから。


「森さん。すみませんがここを片付けてもらえますか?」


 俺は高宮が作業中だった棚の辺りを指さした。


「あ、はい。かしこまりました」

「それと、これはお願いなんですが、今後高宮に雑用はさせないでいただきたい」

「わ、私はそんな事は……」

「おっと、玉田がさせたんでしたね。失礼しました。むしろ俺は謝らないといけませんね。御社の仕事を、部下が横取りしたようなものですから。今後は業務分担をきちんと守るよう、部下によく言っておきますので、許していただけますか?」

「はい、それはもう……」

「では、後をお願いします。高宮、行くぞ」

「はい!」


 高宮……

 今は明るく返事する空気じゃないだろ? 可愛いから許すが。


 森さんは、可哀想になるほど俺にペコペコ頭を下げていた。俺にしてはごく穏やかに言ったつもりだが、かえってそれが堪えたのかもしれないな。