顧客の会社でシステムのプレゼンを終え、職場に戻ったのは昼の少し前だった。真っ先に高宮の姿を探すと……いた。まずはホッとしつつも、酷い違和感を俺は覚えた。

 あいつ、何やってんだ? というか、何やらされてんだ?

 しばらく見てると、高宮は部屋の奥よりにある棚から古い資料やソフトのパッケージを降ろし、それをプラゴミと金属と紙に分別し、それぞれのダンボール箱に入れていた。それは疑いようもなく雑用中の雑用で、普段は誰もやりたがらない作業だ。


 俺はすぐさま玉田の元へ行った。


「玉田……」

「あ、課長。お帰りなさい」

「あ、ああ」


 玉田は、一言で言えばお坊ちゃんだ。おそらく育ちが良く、躾はそれなりに出来ていそうだし、性格も悪くないと思う。しかし……


「なんで高宮は雑用をしてるんだ?」

「それはですね、森さんが……」

「森さん?」


 森さんは、関連会社の業務委託の人で、歳は俺よりも上のかなりのベテランで、昔から庶務関係の仕事をしてもらっている女性だ。しかし、玉田の口からなぜ森さんの名前が出てきたのだろうか。


「はい。森さんが、高宮さんには、最初の内は雑用をやってもらえばいいんじゃないかって……」

「言われたのか?」

「そうです」

「それでおまえは……」

「そういうものかと思いまして」

「ばっ……」


 おっと、ここで怒鳴ったらまた高宮が泣くからな。あぶない、あぶない……

 俺は玉田を怒鳴るのを寸前で止めた。もちろん、“バッカ野郎!”と怒鳴りたかった。バカ野郎ではなく、バッカ野郎と。

 怒鳴るのは止めたが、俺の頭の中は怒りで煮えくり返っていた。