高宮を廊下でそっと降ろしたが、高宮はまだ泣き止みそうもなかった。俺はポケットからハンカチを出し、「これで拭きな?」と言って高宮の手に当てたら、高宮は素直に俺のハンカチを目に当てた。

 俺に触れられた……いや、そんなものじゃないな。なんせ、いわゆる“お姫様抱っこ”だからな。
 という事をされた件について、高宮は嫌悪を感じていないようで、セクハラで訴えられる事はなさそうだ。まだ楽観は出来ないが。

 それはそうと、俺はどうしたらいい?

 俺はしばし手をこまねいて高宮を見た。本当に子どもみたいだ。正に女の子。履歴書の歳は、さばを読んだのではなかろうか、と思えるほど。もっとも、若くさばを読むならまだしも、その逆は普通ないと思うが。

 昨夜、野田が言った「守ってあげたくなる」の言葉を思い出す。正にそうだなと思った。だが、この状況で俺は、どう守ればいいというのだ。

 あ、そうか。野田だ。野田ならなんとかしてくれると思う。

 俺はポケットからスマホを出し、連絡先を開いて野田恵子を探し、タップして電話を掛けた。

 すぐにコールが始まったが、女は携帯を携帯しないからな、と嫌な事を思い出した。つまり女はバッグや引き出しに携帯を入れがちだから、この着信に気付かないかもしれない。

 頼む、出てくれ、と祈りながら待つと、かなり待たされたが野田が出たようだ。


『なんかあった?』


 いきなりそれかよ? ま、確かに何かなければ電話なんかしないわけだが。


「野田、助けてくれ」

『ど、どうしたの?』

「高宮が、いや高宮を……」


 続くはずの“泣かせてしまった”の言葉を言えなかった。かっこ悪くて。


『詩織ちゃんが、じゃなかった詩織ちゃんを……どうしたの?』


 野田のやつ、おちょくってんのか?


「とにかく来てくれないかな。俺の職場まで。頼む!」

『わかった。すぐ行く』


 ふう。助かった……