「湊くんの女嫌いは、お母さんのことがきっかけだったんだね」



「お母さんのこと大好きだったからね……湊は」



あの日、



湊を置いて行ってしまったお母さんを、



ベランダから見つめていた湊の横顔。



湊の手を握りしめていたあの日を。



あたしは、いまでも忘れられない。



「湊くん、結雨ちゃんみたいな人がそばにいてくれてよかったね」



「あたしは、湊に何もしてないよ?」



「ひとりぼっちでいるのと、誰かがそばにいてくれるのは全然違うよ」



あたしは少しでも。

ほんの少しでも。



湊の悲しみを、心の傷を。



癒す手伝いが、できたのかな。



何もできなかったけど。



あれから、

湊のそばにいることしかできなかったけど。



こんなあたしでも

少しは湊の役に立てた……?



「湊くんと結雨ちゃんの関係……すっごくうらやましいけどな」



そう言って奈乃は、優しく微笑む。



「“幼なじみ”って、欲しくても手に入るもんじゃないし。ある意味、運命だよね」



運命なんて……そんなこと、いままで一度も考えたことなかった。



「湊くんと結雨ちゃん。ふたりにしかわからないこと……きっと、たくさんあるんだろうなって」